ぼっち・ざ・ろっく!   ~大衆化した音楽アニメの豊かな萌芽~

アニメ

2024年6月公開の劇場版「ぼっち・ざ・ろっく!Re:」、同年8月公開の「ぼっち・ざ・ろっく!Re:Re:」を観てきた。
連れて行った小学4年生の娘が存外に大満足していたので、改めてその魅力について考えてみたい。

・あらすじ
簡単にアニメーション作品の概要を説明する。陰キャでコミュ障の主人公:後藤ひとりが、「陰キャでも輝ける」道として、ギタリストを目指す。コミュ障ゆえに友達が出来ず、中学校3年間全てを自室でのギター練習につぎ込んだ結果自身の動画アカウントではプロ並みの演奏レベルに。バンド活動に憧れるも友達が出来ない高校生活も少し過ぎたころ、臨時のバンド「結束バンド」のメンバーに誘われ、伊地知虹夏、山田リョウ、後から(再)加入する喜多郁代とともに、ライブハウスでの初ライブ、学園祭ライブまでを描く。
アニメーション版では、漫画原作における2巻終わりまでが内容となる。
キャッチコピーは「陰キャならロックをやれ!!」
「4人でも、ひとり。」

・原作を下敷きにしつつも躍動感を与える脚本力

(第4話、アー写の下り。
「生まれてしまう、、、承認欲求モンスター!!」を、初代ゴジラなど怪獣映画のエフェクトにセルアニメを重ねて描写されている)

NHK教育の実験的な朝番組「シャキーン!」の構成、アニメーション作品「TIGER&BUNNY」、近作では「思い、思われ ふり、ふられ」の脚本を担当していた吉田恵里香が担当。
漫画原作の「ぼっち・ざ・ろっく!」を読み込んで気付くのは、キャラクターの魅力と日常世界の立体的な描写に注力して、かなり徹底的に掘下げるシーンと削ぎ落すシーンを選り分けていることだ。
それは次の「演出」の項目でも述べるが、特に後藤ひとりの精神世界への逃亡劇の描写を、多種多様な演出手法を交えながら、コミュ障であることをコミカルに、かつ温かく共感者目線でタッチしていく。

・前衛的でコメディシーンの先端を彩る演出

劇場版では、主に後藤ひとり(前編)、および喜多郁代(後編)の成長と楽曲シーンへの集中と選択により、大幅にカットされてしまったが、TVアニメーション版の大きな魅力の一つはその前衛的な動画の演出手法の多様さにある。
詳細は文末のWebサイトが凄いので、是非参照頂きたいが、
ざっと気になった手法だけでも、以下のように幾つもの手法が、シーン毎に、ギャグシーンと世界観の補強として、かつかなりの頻度で出現する。
これをまとめ上げた監督の斎藤圭一郎(近作:葬送のフリーレン)と、制作のCloverworks(代表作:SPY*FAMILY等)には本当に脱帽する。


※手法事例1,「劇メーション」(セルアニメ中にペープサート調のアニメーションを交える手法。主に後藤ひとりの妄想シーンで多用)
※手法事例2,「モンタージュ・シークエンス」(セルアニメ中に実写を交える手法。アーティスト写真の撮影や後藤ひとりの自宅訪問など、背景画像を別々に制作されている)
※手法事例3,「クレイアニメ」(完全な粘土造詣のみで構成されるアニメーション。粘土の生成、変化と移動を連続的に繋げる。後藤ひとりの自宅訪問回で採用)


※『ぼっち・ざ・ろっく!』細かすぎる全話演出解説を通して学ぶアニメ演出①『ぼっち・ざ・ろっく!』細かすぎる全話演出解説を通して学ぶアニメ演出https://note.com/skripka/n/neb38e852be31

・アニメーションとしてではなく、「バンド」としての楽曲


https://www.youtube.com/embed/5tc14WHUoMw?feature=oembed

本作、特にアニメーション版の魅力はその作中音楽にあり、
ライブシーンと連動した細かな演奏状況の演出、光源や色彩の明滅、観客の雰囲気、演奏者の息遣いなど、非常に緻密に作り込まれている。
劇中では6話、8話、12話が作中楽曲の演奏シーンとなるが、もはやMVであり、2023年の「BanG Dream It’s MyGO!!!!!」や、
2024年の「ガールズバンドクライ」がほぼCGで構成されたMVであることを考慮すると、セルアニメとしてのMVの完成度の高さは群を抜く出来だと思う。


特に8話で演奏される、緊張でミスを連発する
「ギターと孤独と蒼い惑星」。ドラム、ベース、ギターとボーカル全てがズレてバラバラに演奏されるのだが、1度正常な楽曲演奏を行ったうえで再度ズレたメロディーラインで収録するなどの徹底したリアリズムに基づいて製作されており、非常に生々しく、観客にも緊張感と焦燥感を掻き立てるものになっている。

だからこそ、その演奏後、2曲目の「あのバンド」で、会場とメンバーの状況打開として、ある意味「空気を読まない」性格を武器に、持ち前のテクニックでギターを掻き立てる後藤ひとりの演奏が映える演出ともなる。

これまで、ラブライブ!や「BanG Dream!」などを除けば、アニメーションにおける楽曲製作といえば「キャラクターソング」であった風潮を完全にひっくり返し、「ぼっち・ざ・ろっく!」の「結束バンド」が構築する「バンドとしての音楽」のレベルにまで昇華されているのは、後続への影響も踏まえるとエポックメーキングといえる。

・キャラクターデザイン

漫画版と一瞥して分かることの一つに、そのシンプルに表現されたキャラクターデザインがある。
漫画では「まんがタイムきらら」に代表されるような所謂「萌え絵」であり、蒼樹うめ や かきふらい などの系譜に連なる絵柄で展開される。
これに対し、前述のように多彩な演出や音楽表現を意図する目的で、アニメーション版は単純化され、萌え要素を殺いでおり、原画についても作画監督からのリテイクも殆ど出されないなど、かなり自由度が高い。
この絵柄の文脈的な開放性も、一つ、人口に膾炙する要因となったと考える。

・「日常系」という枠組みから半歩ずれた、純粋で丁寧な成長譚

「成長」をどう定義するか。筆者は他の記事でも言及しているが、現代における成長の定義は多面的であり、その社会的背景や経済亭要因、集団構成により多様化が進んでいるために一意に定めることは難しい。

ここでは、劇場版「ぼっち・ざ・ろっく!Re:」(前編)、「ぼっち・ざ・ろっく!Re:Re:」(後編)の力点とTV放送との違いを検討しながら、その内容を考えたい。

TV版では、コミュ障で陰キャである後藤ひとりが、バンド活動を曲りなりにも行い、友人関係を構築しつつも、最終話では再び妄想の精神世界に逃亡してしまう(ギター購入に失敗する)様子が描かれ、非常にスローペースに前進する過程が描かれる。

対して劇場版「ぼっち・ざ・ろっく!Re:」(前編)では、ギャグパート(特に自宅訪問編など)を大きく削ぎ落し、ライブハウスでの演奏に至るまでの、後藤ひとりの明確な変化を描く。
特に冒頭で練習後の自販機周辺で、「どんなバンドがしたい?」と伊地知虹夏に聞かれて口ごもる後藤ひとりと、その終盤で「(結束バンドで)バンド活動を続けて、みんなの力になりたい」という、後藤ひとりの決意の暗喩を示しながら、劇中歌「あのバンド」でメンバーを無意識的に(行動でもって)鼓舞するシーンで締めくくられる構成は、非常にシンプルで分かり易くなっている。

ちなみに「ぼっち・ざ・ろっく!Re:Re:」(後編)は、前編と変わって喜多郁代の成長に焦点が充てられる。
元々メンバーの山田リョウ目当てで活動しており、ギターが全くの素人である喜多郁代が、高校の文化祭のステージに「結束バンド」として舞台に立つという応募をするのだが、これは一度、後藤ひとりが応募をしようとして破棄しようとしたものを、確信犯的に無視して進めたものだ。


その罪悪感と、自身のレベルの低さに対し、やや自己卑下的になりながらも、練習を重ね、ギターのソロパートまで担当するに至る。特に劇中歌の「星座になれたら」における、後藤ひとりのソロパートでの、ギター弦の破損というアクシデントをカバーする、喜多郁代のシーン。
そして文化祭ライブ中の謎ダイブを経て保健室で俯く後藤ひとりに対し、
「私は後藤さんみたいに皆を引き付ける演奏はできないけど、
 みんなに合わせることは得意みたいだから、、」
と独白するシーンは、今後のライブ活動に対するコミットメントを明確に示しているものだ。

・ギターヒーロー

(Pixiv ギターヒーローより https://www.pixiv.net/artworks/103339936

「ロック」という反社会的勢力の象徴と、「ヒーロー」という大衆を救済する象徴を同居させる、作中で後藤ひとりの動画サイト投稿者名義で呼称で使用される「ギターヒーロー」。

このアイロニカルな名称を考えることで、現在におけるヒーローが象徴するものと、音楽業界におけるヒーローを少し考えたい。

そもそも「ギターヒーロー」とは、後藤ひとりが物語初期でおかれたコミュ障による自意識の窮地における偶像を渇望する、無根拠で、空想的で、確立した目的をもたない、ある意味「しょうもない」個人の顕在欲求として示される。

何が「しょうもない」のかと言えば、後藤ひとりのおかれた窮地は、完全に自意識の空転と、コミュニケーションにおける行動力の無さに起因する、自意識の問題でしかなく、クラスで頑張って他人に話しかけていけばある程度解決可能なものだからだ。
誰か突然「スーパーヒーロー」なるものが外部からやってきて救済するべきものではない。

この段階における「ヒーロー」とは、前時代的な意味であり、超人的な力をもち、選ばれた者だけがなりうる、単純化された悪が存在しやすい「大きな物語」が機能しえた世界での思想だ。

21世紀は違う。もはや大きな「正義」は機能しないし、高速に複雑化する社会では、誰もがそれぞれの正義を掲げて立ち上がる「決断主義」的な社会になり易い。

一方で、現代社会では、多様な人々が共存し、それぞれの個性を尊重することが求められる、多様性と包容性を重視される。
そうして人々の心をつなぎ、勇気と希望を与えることも、一つの現代におけるヒーローの役割といえる。

それは、8話において後藤ひとりの演奏が結束バンドの窮地を無意識的に救ったこと、演奏後に伊地知虹夏から、
「私にとってのギターヒーローだよ」と言わしめること、
さらには漫画版における2巻のラストにおいて、バンド解散の危機を「無根拠ライオット」(若年バンド選抜コンテスト)への参加を意識的に提案すること。。。。

これらの具体的な「行動」の結果が、結束バンドの心をつなぎ、ひいては読者にある種のカタルシス(精神的な救済)を齎していることも見逃すべきではないだろう。

彼女が示す「ギターヒーロー」が今後、どのように困難を解決していくのか、現代のヒーロー像の行く末を楽しみにしたい。

後記:散逸的な内容になったが、ぼっち・ざ・ろっく、ぼざろは優れた先行研究が大量にあり、かつ世界的にも市場が広がっていることが確認できたことが今回の最大の収穫だった。今後も多くの文化的な広がりがあることを望みたい。

普通に家族そろって鑑賞できる、間口の広い作品だと思うので。

参考文献

ぼっち・ざ・ろっく! (アニメ) - Wikipedia
『ぼっち・ざ・ろっく!』細かすぎる全話演出解説を通して学ぶアニメ演出①|Hiroshi_Yasuda
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『ぼっち・ざ・ろっく!』細かすぎる全話演出解説を通して学ぶアニメ演出③|Hiroshi_Yasuda
2022年10月から放送が始まった『ぼっち・ざ・ろっく!』。 今更『けいおん!』の二番煎じ?と思ったが、見始めてみると、意外にも、これが驚くほど作り込まれた尖った演出の数々で、黙ってはいられなかった。 2022年12月28日より、DVD&ブ...

「劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく!Re:」はTVアニメ版とはどう違う? | ぼっけもんのてげてげブログ (bokkeboke.com)

『ぼっち・ざ・ろっく!(ぼざろ)』は最高のバンドアニメだ! 陰キャすぎる主人公・後藤ひとりと“結束バンド”の活躍に釘付け
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コメント

  1. […] さて、大ガールズバンドアニメ時代到来!である。本記事では2020年代ガールズバンドアニメとして ぼざろ、MyGO!!!!!、ガルクラを中心的に取り上げたい。上記3作品の合計で市場規模推定1000億円前後とも言われており、さらに近々のガルクラ(ガールズバンドクライ)のLiveの盛況、ゲーム化、またMyGO!!!!!の後編であるAve Musicaを2025冬に控えるなど、まだまだリリースは続く見込みである。マクロ的には、アニメ産業における音楽事業の売上が漸減する一方(317億円→274億円、2023年度)で、ライブエンタテイメント事業の急激な盛り上がりなど(571億円→972億円、2023年度)、大勢も追い風の状況だ。 […]

  2. […] 2022年。冬ベスト:時光代理人-LINK CLICK-、86、プリンセスコネクトSeason2、着せ替え人形は恋をする、異世界美少女受肉おじさんとワースト:錆色のアーマ-黎明-、賢者の弟子を名乗る賢者、東京24区、トライブナイン春ベスト:パリピ孔明、SPY×FAMILY、まちカドまぞく2丁目、BIRDIE WING殿堂級ワースト:境界戦機夏ベスト:てっぺんっ!!!!!!!!!!!!!!!、リコリス・リコイル、シャインポスト、邪神ちゃんドロップキックXワースト:惑星のさみだれ、はたらく魔王さま!!、東京ミュウミュウにゅ~♡秋ベスト:ぼっち・ざ・ろっく、アキバ冥土戦争、アークナイツ、異世界おじさん、ガンダム水星の魔女、DoIt Youself!!、チェンソーマンワースト:かがみの孤城、VAZZROCK THE ANIMATION […]

  3. […] あるいはガールズバンドアニメにおいては、映画「リンダリンダリンダ」を模した「涼宮ハルヒの憂鬱」のライブの臨場感を換骨奪胎して、日常のくだらなさを歌い上げロックの意味を無効化した「けいおん!」や、その後継者としてのアイドルアニメ文化、さらにその日常に対する反抗としてのロック音楽神話の復活(「ぼっち・ざ・ろっく!」「ガールズバンドクライ」)、もはや音楽ですらなく言葉としての「詩」の持つ一回性の暴力に未来を見出す(「BanG Dream!It’s MyGO!!!!!」)という、やはり終わりなき2項対立の歴史でもある。 […]

  4. […] as well as the revival of rock music mythology as a rebellion against that everyday life.(「Bocchi・the・Rock!」「GirlsBandCry」)、The future is found in the one-time violence of “poetry” as a word, […]

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