ナラティブ経済学

ナラティブ経済学 経済予測の全く新しい考え方
著:ロバート・J・シラー 訳:山形 浩生 出版社:東洋経済新報社

※本記事は、マーケティング理論と情動、物語構造の研究のための抄録です

概要
人々の語る物語がいかに経済を動かすかを分析した画期的な本。

世界を変えるニューテクノロジーに取り残されるわけにはいかない(ビットコイン)
ニューテクノロジーは雇用を破壊する(AI)
チューリップが売れるには合理的な理由がある(金融バブル)
住宅価格は決して下がらない(不動産バブル)

ある物語は根拠なき熱狂となって人々の信念を変え、人々の行動を変えて、マクロ経済を大きく動かしてきた。

どうしてあるナラティブだけが繰り返されて、人口に膾炙していくのか?
ナラティブはどのようなメカニズムで、通説化し、人々の心をとらえるのか?
過去に語られてきた、有名なナラティブとはどのようなものか?
脳科学的に、人々はなぜそうしたナラティブを創り出したがるのか?

アニマルスピリット、それでも金融は素晴らしい、不道徳な見えざる手、と、現実経済を理解する上で
深い洞察を示してきたノーベル賞経済学者が、新しい経済学の方向を示す。

抄録


・はじめに ナラティブ経済学とは何か
・・ナラティブ経済学:この用語の中身
ナラティブとは「ある社会、時代などについての、説明や正当化を行う記述のための物語や事象」。物語はまた、歌、ジョーク、理論、説明、計画などで情動的な共鳴を引き起こし、普通の会話で簡単に伝えられるようなもの。歴史の中で物語がヴァイラルとなり、魅力的なセレブ(架空、実在問わず)がその物語にこだわることで、人間的な興味をナラティブに加える。
ヴァイラルなナラティブは、ある程度の人格と物語を必要とする。
感染が最も強いのは、人々がその物語の根底にいる、またはその影響を受ける人間との個人的なつながりを感じるときである。
ナラティブ経済学は、人気ある物語が時代を通じて変化し、経済的な結果に影響を与えることを実証する。
究極的にナラティブは、文化や時代精神、経済行動における急変の大きなベクトルだ。

・・将来の大規模な出来事の予測改善
IMFの発行する「世界経済見通し」の194か国の1988年以来の不景気469件のうち、IMFが正しくマイナス成長を予測したのは17件のみ。不景気と予測して実現しなかった例は47件。
チャリング・クープスマンは「理論なしの計測」で、GNPや金利などの時系列データなどの統計的性質のみで予測を考える手法を批判し、人間行動の実際の観察に基づく理論を求めた。
本書の主張は、ナラティブ経済学の技芸(アート)を組み込むことが経済学者たちの科学を進歩させる最善の方法であること。

・・経済事象予測の道徳的な責務
アーヴィング・クリストルが1977年に批判したように、事業者の景況感の計画は、「何を言ったか」(アンケートにどう答えたか)ではなく、「何を成したか」で考えるべきだ。

・・ジョン・メイナード・ケインズ:ナラティブ経済学者
第一次世界大戦後、1919年にケインズは「平和の経済的帰結」の中で、ドイツが深い遺恨を抱くと予測し、情けをかけようとする他の主張を掻き消し、「復讐心」「革命という絶望的な痙攣」という用語により、道徳的な基盤に満ちたナラティブを示唆した。

・・根拠なき熱狂からナラティブ経済学へ
梗概

ナラティブ経済学の始まり

1 ビットコインのナラティブ
・・ビットコインとバブル
ビットコインは何十年物研究の賜物であるが、その技術を理解している利用者はほとんどいない。実際はマークルツリーや楕円曲線デジタル署名アルゴリズ、スループットの混雑待ち行列ゲームの透過物として描ける。歴史を遡ると、ビットコイン疫病の背後にある感情の発端が、19世紀アナキズムの成長の起源にあることがわかる。

・・ビットコインとアナキズム
ビットコインは平和的なアナーキーと自由の切っ掛けとして、権威当局を無力化するための暗号通貨というナラティブとして、アナキストという混乱と暴力の古来の反アナキスト的なナラティブに対する対抗ナラティブを提供した。

・・人間的な興味のナラティブとしてのビットコイン
ビットコインはセレブの英雄、サトシ・ナカモトという、素性の知れない謎の人物が中心的な役割を果たした。人々は謎の物語が大好きで、その謎が深まるのも好きだ。
魅力的な謎が繰り返し語られることで、ビットコインのナラティブの感染率は高まった。

・・ビットコインと格差の恐怖
世界中の学生を初めとして人達は、自分たちの教育が人生での成功に役立つのかと疑問視していて、それが不安を創り出し、それがビットコインのような、技術に動かされる暗号通貨の感染を、間接的に後押ししている。少なくともコンピューター技術を身につけるという想像可能な希望を、もっともらしくしなくても提供してくれるように思えるからである。

・・ビットコインの未来
今日では、市技術をつかさどる人々こそが勝者になるというナラティブがあり、しかし計算機科学の学位を持っていても成功が約束されず、金融屋が物事を仕切っていると示すお話が多い為、まさにその金融側のビットコインが、「未来」の一部になれるというナラティブとして価値を与えている。

・・世界経済への会員証としてのビットコイン
 ビットコインウォレットを持つと、その人は世界市民になり、ある意味で心理的に伝統的なつながりから解放される。世界の殆どの人々が、もっと広いコスモポリタン文化の一員を辞任し、国民国家は益々人々の野心にとってどうでもいいように思えてくる状況がある。

2 一致性の冒険

「一致性」はウィリアム・ウィーウェルが1840年に考案し、E・O・ウィルソンが1994年に広めたもので、異なる学問分野、特に科学と人文学との間での知識の統合化を意味する。
ナラティブ経済学は大学の殆どの学部から概念を導入する必要があるが、学問分野同誌は孤立しがちであり、特に経済学と財政学は後塵を拝している。

・・疫学とナラティブ
医学部は100年間にわたり疫病の拡散を数学的にモデル化しようとし、結果として大きく発展し、経済学への応用可能性が高い。

・・歴史とナラティブ
歴史家たちは常にナラティブを重視してきたが、その中身が重要だ。
人々の行動を理解するには「エネルギーをもたらす用語やイメージ」を考えるのが良いというのが有力だ。それは暴徒に撃ち殺される新聞記者、奴隷制を巡る南北戦争など。
ラムゼー・マクマレン、それに続くダグラス・ノースは2005年「制度原論」で、人間の意図は基本的にはナラティブという形で重要だということが強調される。

・・社会学、人類学、心理学、マーケティング、精神分析、宗教学からの洞察
ナラティブ心理学、談話社会学、ナラティブの精神分析、宗教学へのナラティブアプローチ、ナラティブ犯罪学、フォークロア研究、口コミマーケティングという呼称でナラティブ研究を強調する学派が生まれた。
それは人々が、自分の人生の目的や哲学を説明するより、個人的な物語を語る機会があれば大喜びし、彼らの価値観を明かすものが主題である。それらの物語は、道徳性の不在よりは道徳性の歪曲の感覚を伝えるものが多い。
あるいは企業の創業神話として、多くの物語を正当化するために、創業の父へと回帰しがちとなる。

・・文藝研究とナラティブ
文学部の研究も参照点となる。カール・ユングの原型、メラニー・クラインのファンタジー、
ジョン・G・カウェルティの定式化物語分類、ウラジーミル・プロップによる伝承物語の「31の機能」、ロナルド・B・トバイアスの主要プロット20種、クリストファー・ブッカーの主要プロット7種、メアリー・クラーゲスによる物語化の否定、ピーター・ブルックスの物語論「(物語論=ナラトロジーは)ナラティブがどう読者としての人々に作用するか、理解のモデルの創造、なぜそのような形成秩序を人々が必要とし、求めるのか」についての探求、、、、等

・・神経科学、神経言語学、ナラティブ
神経科学者オシン・ヴァルタニアンはアナロジーとメタファーは人間の脳のfMRI画像で同じ脳部位を「確実な形で活性化させる」とする。つまり人間の脳アナロジーで考えるため、物語に反応するようにできているようだ。
言語学者ジョージ・レイコフと哲学者マーク・ジョンソンはこうしたメタファーが記述や言動の修飾にとどまるものではなく、思考を形成し、結論にも影響するとする。

・・一致性は共同研究を呼びかける

3 感染、群れ、合流

感染病は上昇、減少を繰り返し、
ピーク上昇と減少が類型的に観察できるコブ形になる

・・感染、回復、低下
・・ビットコインナラティブの感染
・・経済モデルの感染
・・ナラティブの群れと合流
大規模な経済ナラティブはしばしば多くの小さなナラティブの群れで構成されるので、その群れ全てを見る必要がある

4 なぜ一部のナラティブが流行るのか

・・人間の思考と行動におけるナラティブの自発性
J.P.サルトル :人は常に物語の語り手であり、自分や他人の物語に囲まれて暮らし、自分に起こること全てをそれらを通して観る。そして自分の人生を、自分がその物語を語っているかのように生きようとする。
社会学者はナラティブ感染を社会変化の核心と捉え始めている。黒人差別反対運動のシットイン、アンクル・トムの小屋とアメリカ南北戦争における奴隷解放など

・・ナラティブの普遍性
・・ナラティブにおける陰謀理論
人気あるナラティブには善悪二元論が多く、多少の事実を含み、陰謀に対して自己を守るように敵味方を峻別するように誘導する構造が観られる

・・物語とナラティブ
・・脚本とキャリーバッグ
「つつましい人間の(プルーデント・マン)ルール」は経済的な影響をもつ社会規範の一つであり、これは人間が脚本通りに動くことを好む傾向にあることを示す。
曖昧な状況でどうすればいいかわからない状況では、人々はナラティブに立ち戻り、まるで以前にみたことがある芝居のように振る舞う。
これは思慮が浅い行動だが、一方で、あるアイデアが脚本の一部だったり、うまくパッケージされていたりすると、そうしたアイデアを採用しない。
例えば車輪付きスーツケースは1890年代に発明されたが、実際に流行して標準的な用具とされるには1990年代まで待つ必要があった。
それは航空機の乗務員たちの広告「世界中の乗務員たちの一押し」の宣伝、ナラティブが効果的だった。

・・ヴァイラル性についての実験的証拠
社会学者マシュー・J・サルガニクらの実験「人工的な音楽市場」では、独立の場合と情報を共有される場合とで比較し、
共有世界でのランダムな最初の選択が次第に増幅されていくことを示唆した。
経済史を含む歴史は、理解したり世間的なコンセンサス獲得を得る後のナラティブが示すような論理的なシーケンスでは動かない、
少し高い感染率を持つナラティブの、ちょっとした突然変異、低い忘却率、先行者優位などが、
競合するナラティブ群の一つを頭一つ抜きんでるようにする。

5 ラッファー曲線とルービックキューブの大流行

ナラティブ研究で最大の課題の一つは、重要な感染率や回復率を予測することの困難性にある。感染を創り出す心的、社会的プロセスを厳密に観察はできない

・・ラッファー曲線と悪名高いナプキン
1974年にアーサー・ラッファーがナプキンに描いたラッファー曲線は、流行曲線的なものが連続して二つあり、
一つは1980年代に上がり、もう一つは2000年代以後、「現代貨幣理論(MMT)」との関連付けの際に生じたものだ。
内容は逆さにしたU字型で、国の所得税率と、所得税率を関連付けたもので、前者が上がれば労働者は意欲を失い、税収が減ることを示す。
これは高所得者の大減税の正当化のために用いられ。1980年のロナルド・レーガン大統領、1979年のマーガレット・サッチャー首相の理論正当化にも用いられた。
それは1978年のジュード・ワニスキーの「世界の仕組み」に発表された小噺がヴァイラルの契機となったとされる。

・・視覚的な補助がヴァイラルに
(センテンス名に加えて)例えば古代ローマの元老院キケローは、シモニデスを引用して述べている。
最も鮮烈なのは視覚である。聴覚や知性を通じて受け取ったもので最も容易に心に留まるのは、それが心の目という手段を通じて想像力に提示される場合である。
また記憶訓練の専門家ハリー・ロレインは、同様に、異様で視覚的な心的イメージが記憶の改善に有効だと主張している。

・・ルービックキューブ、会社乗っ取りなど平行する流行
・・ラッファー曲線、サプライサイド経済学、ナラティブの群れ
・・セレブ、小ネタ、政治
レーガンというセレブの軽いジョークが経済的に強力なナラティブとなりえる。これらの記憶は整理されて伝えられる必要がある

6 経済ナラティブのヴァイラル性に関する様々な証拠

ナラティブ感染が経済に与える証拠は、人間の脳内の物語構造、怖い話の脳内処理、原始的な人間の相互作用をマスコミが強化する長い歴史、本の表紙やロゴの有効性、美人コンテストがもたらす情緒的影響に観られる。
・・物語を伝えたい衝動
・・恐怖を引き起こす物語への神経反応
・・ナラティブは何千年も「ヴァイラル」になってきた
・・本のカバーと企業のロゴ
・・美人コンテストと尻尾の羽根:心の理論が経済ナラティブを促進
美人コンテストと同様、最適な投資は、他の投資家たちが投資しそうだと、他の投資家たちが考えそうな投資先を、同様に他の投資家たちが陥りがちな不合理的選択を踏まえながら行うのが良い

・・不合理な衝動が経済ナラティブを後押し
ナラティブは事実、感情、人間的関心など、人間の心に印象を形成する外生の詳細が混じり合って生まれる人間の構造物。統合失調症、自閉症スペクトラム障害で見られるナラティブ障害は、脳の異常と相関がある

・・フレーミング、代表性ヒューリスティック、感情ヒューリスティック
・・先に進む

2部 ナラティブ経済学の基礎
7 因果性とナラティブ群

・・因果の向き
新しいナラティブは外在的なものと解釈して、
追加の準対照実験を見つけることはできる。
因果性が常に経済事象からナラティブに向かうという経済学者の言説には警戒するべき。有名なのは太陽黒点で、これは時間とともに現れては消える。
太陽黒点は経済にほぼ影響しないが、人々がそう信じるというだけで経済に影響する可能性はある。

・・ランダムな事象、誕生日、記念日:ナラティブが経済ナラティブになるには?
・・経済学以外からの対照実験が因果の方向性を示す
マーケティングの分野で、ジェニファー・エドソン・エスカラスは、実験により、広告を見る人が製品を自分の個人的体験に関連付けるときに自己参照が生じるとした。
対照実験の内容は、分析的な自己参照(なぜ自分がその製品を必要とするかという説明)と、
ナラティブ自己参照やナラティブ移送(個人が、自分が別の人間になったと想像させるような物語を提示する)とを比較したものである。後者の方が有効性が高かった。
他の分野の実験結果の応用は重要。経済学は、社会心理学、社会学、文化人類学、歴史人類学、文化歴史学や知の歴史など、他の社会科学から学ぶことができる。

・・人間行動の駆動における物語の重要性
・・フラッシュ式記憶
自分の心的な立場がいきなり変わった時の事は、孤立したはっきりわかる因果的な刺激があり、「フラッシュ式」記憶とされる。
フラッシュ式の記憶は、一見するとどうでもいい細部に動機づけられる人間の傾向を援用する。真珠湾攻撃、9.11米国貿易センタービルテロ事件など。

・・どこにでもあるフェイクニュース
・・ナラティブ群からの因果性の証拠

8 ナラティブ経済学の7つの主張

・・主張その1 流行は速度も規模も様々
・・主張その2 
  重要な経済ナラティブは世間的な話題のごく一部でしかないこともある
・・主張その3 ナラティブ群は単独ナラティブのどれよりも影響が強い
・・主張その4 ナラティブの経済的な影響力は変化するかもしれない
  ナラティブが時間とともに発達する中で変わる細部が重要

・・主張その5 虚偽のナラティブを止めるには真実だけでは不十分
  真実は重要だが、それは本当に有無を言わせないくらい明らかなときだけ

・・主張その6 経済ナラティブの感染は反復機会を利用する
・・主張その7 ナラティブはつながりで栄える:
  人間的興味、アイデンティティ、愛国心

3部 繰り返される経済ナラティブ

9 反復と変異
・・経済ナラティブの変異
・・経済ナラティブの再発
・・大きな経済的事象、大きなナラティブの教訓

10 パニックと不安
・・群集心理がヴァイラルに
群集心理、被害暗示性、自己暗示はかなり標準的な流行曲線を描くのである程度、大恐慌のような不況の予測に役立つ

・・暗示の心理と自己暗示運動
人間活動における自身の見えざる力/自己暗示に対する関心の背後にあるのは、気圧という見えざる力が敵に見えざる影響のアナロジーであり、
その両方を予測できるという可能性だ。

・・天気予報、経済の不安予想
天気予報は科学的根拠に基づくものだが、人間は同様に経済予測も可能と考える。これは自己成就的預言の要素があるかもしれない。
しかし基本的に経済動向の完全な予測はできず、代わりに、未だにそれが可能と信じられている人間がいるために、
商務省や景気先行指標総合指数、景気先行指数などの人気と流行が衰えていない状況がある。

・・経済のバロメーターとしての不安
恐れるものはおそれそのものだけだという言説がある。経済不安に関するヴァイラルなナラティブは簡単にコントロールできず、予想外の作用を持つこともある。
全体としてのナラティブは不景気を防ぐほどの強さもないし使い方もうまくないが、人々の意識にはあり、条件が変われば再度台頭する可能性がある。

・・大量失業に注目したナラティブ
・・大恐慌についてのちがうナラティブが発達
それは倹約、および顕示的消費として繰り返し利用される

11 倹約VS顕示的消費
・・大恐慌期の倹約と思い遣り
・・大恐慌時代のナラティブをそれ自身の言葉で
・・新たな質素さの熱狂
・・質素なファッション;ジーンズとジグソーパズル
・・「アメリカンドリーム」といったナラティブが倹約ナラティブに取って代わる
もともと「アメリカンドリーム」は1931年にジェイムズ・トラスロー・アダムズが「アメリカの叙事詩」で説明したのが最初であるが、
当初の意味は「各人の人生があらゆるひとにとってもっとよく、豊かで十全なものとなり、各人に能力と業績に応じた機会が与えられる」ことであった。
これを1968年のマーチン・ルーサー・キング・ジュニアは「私には夢がある」で利用し、一躍、アメリカンドリームがヴァイラルになった。

・・アメリカンドリームの変質:持ち家
上記、それぞれの豊かさ、差別の撤廃で用いられたアメリカン・ドリームは、持ち家に象徴されるように(ある意味で矮小化)された

12 金本位制VS金銀両本位性
黄金とお金に関するナラティブは特異な感情的論調を持つことを確認する。

・・1873年の犯罪と感情的な分断
・・金銀複本位制とビットコイン
・・シルバライトとコガネムシ
・・ナラティブが1893年銀行取り付け騒ぎを引き起こす
・・黄金の十字架
金銀複本位制は、あまり話のわかっていない人々が理解できない形で、通貨の裏付けを一見微妙かつ巧妙に変えるという提案だ。
極めて僅かの人間しか理解していないビットコインの背後の暗号と同じだ。
さらに怒りを引き起こした目に見える不正をただしてくれる(かもしれない)アイデアだった。これら2つが激しい流行の契機となった。

・・黄色いレンガの道
・・金本位制の終わり

13 労働節約機械が多くの職を奪う
・・古代からスイング暴動まで
・・1870年代の不況ナラティブ
・・労働節約発明と1890年代の不況
・・機械、ロボット、未来の技術失業
・・1930年以前:機械が人を置き換えるますます鮮明なナラティブ
・・1930年代:新型ラッダイト主義が広まる
・・過少消費、過剰生産、賃金の購買力理論
・・単語誕生:テクノクラシー
・・ナラティブが第二次世界大戦に立ち向かう

14 オートメーションとAIがほとんどの職を奪う
・・オートメーション不況ナラティブ
・・「スターウォーズ」物語
・・株式市場のドットコムバブルまたはミレミアムバブル
・・2007~09年世界金融危機後にシンギュラリティの恐怖が始まる
・・仕事(ジョブズ)とスティーブ・ジョブズ
・・労働節約機械と知的機械を巡るナラティブの経済的帰結

15 不動産バブルとその崩壊
・・投機と土地バブル
・・1920年代フロリダ土地バブル
・・ニュース、数字、ナラティブの登場
・・住宅への浴場と社会的比較
・・持ち家促進の歴史
・・ポンジ氏と彼のもう一つの手口
・・市街地と物語
・・物件転がしの台頭
・・大邸宅と慎み
・・ドナルド・トランプのナラティブと都市投資家
・・今日の住宅市場

16 株式市場のバブル
・・ナラティブ誕生
・・暴落:投機過剰と絶望を分ける地点
・・1929年自殺ナラティブ
・・セレブと靴磨き少年のナラティブ
・・株式市場暴落ナラティブは今日でも重要か

17 ボイコット、不当利益、邪悪な企業
・・ボイコット(不買運動)ナラティブ
・・ボイコットのナラティブがヴァイラルに
・・不当利益の物語が第一次世界大戦でボイコットナラティブを再活性化させる
・・「平常性」への回帰
・・買うべきか買わざるべきか
・・不当利益と公平賃金ナラティブ
・・鋭い1920~21年不景気を突然終わらせたナラティブ
・・1920~21年不況と、1930年代大恐慌との対比
・・1930年代大恐慌のボイコットと不当利益
・・「いま買おう」キャンペーン
・・その後のボイコットナラティブ
 
18 賃金物価スパイラルと邪悪な労働組合
賃金物価スパイラルとは、強い労働組合主導の労働運動が高賃金を求め、経営者が応じて価格転嫁をする、また高賃金を求めるというスパイラルの活動であり、コストプッシュ型インフレとも関連し、ナラティブとして定着した。
それらは例えば旅客鉄道の労働を労働時間ではなく移動距離に基づくものとし、技術革命の進行により途轍も無い追加報酬=高額運賃への転換と結びついた。
あるいは労働組合はマフィアと関連付けられた。全米トラック運転手組合を乗っ取ったジミー・ホッファは、収賄と詐欺で懲役となり、服役後に消息不明となったことから、マフィアとの抗争の果てに殺されたのだというナラティブだ。
・・不正と不道徳ナラティブの群れの中でのインフレ
・・インフレに怒る
・・反復性ナラティブ:まとめ
10〜18で観た広範な教訓は、ナラティブ風景が凄まじく複雑であること。消費者景況指数といった世論の単一の指標はどれも、経済の「強さ」を総括するものにならない。生物学でいえば、多くの細胞受容器と信号分子から成る。
また現代の通信手段は、新しく違う形の流行が可能にし、異なるナラティブに密接に注目する必要がある

4部 ナラティブ経済学の将来

19 未来のナラティブ、未来の研究

・・形と状況の変化
・・新技術は感染率と恢復率を変える
・・ナラティブは経済学研究の未来
・・経済理論におけるナラティブ経済学の位置づけ
・・変化するナラティブについてのよい情報集めは今すぐ始めよう
1.定期的な集中インタビューと、彼らの意思決定に関連した刺激質問への応答としての物語に着目する
2.異なる社会経済集団のメンバーとの定期的なグループインタビューによる、経済ナラティブについての実際の会話
3.長年の、他の目的で行われてきたグループインタビューの歴史的なデータベース。例えばコーネル大学のローパー公共政策研究センターが提供する世論研究アーカイブ
4.説教のデータベース。宗教組織、教会、シナゴーグ、モスクなど
5.個人の手紙や日記のデータベース、デジタルなアーカイブ

・・ナラティブの追跡と定量化
意味情報と記号論の研究が進んでいるが、人間の心によるナラティブの理解は未だまだ先になりそうだ。しかしソーシャルメディアなどのデータ蓄積により経済学でもテクスト分析の勢力が強まり、経済政策立案もいずれ可能になるだろう。
公的文書やメディアのインテリジェント検索には、
alpha-sense.com
prattle.co
quid.com などが有効

訳者あとがき

難点について 
様々なナラティブと影響されたとする景気変動の例はいずれも実証性に欠ける。
清貧の思想と日本景気の失われた20年、
スターウォーズのロボットによる失業不安、
ビットコインを巡るナラティブなど。

ナウキャストとナラティブ経済学について
マクロ経済学ではGDPのナウキャストが既に実運用されている。
例えばセントルイスFRBのGDPnow
https://fred.stlouisfed.org/series/GDPNOW

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カテゴリー: 書籍

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