
~共存とテロル~
・所見
・中華アニメの臨界点(現時点)
・羅小黒戦記とは
・共存とテロル
・要素別見所
・所見
圧倒的な画面と動線創りに兎に角息を呑まされた。
雑にまとめると、開かれた「アークナイツ」だった。
※アークナイツ について 参照
種族対立と共存以上に、複数勢力が交錯して「執行」対象を炙り出す。
その結果は内在的危機であり、終わりの無いテロリズムと支配の入れ子構造である。
それは 「種族」以上に「場所」を巡る問いかけに観えるだろう。
例えば序盤における神殿;流石会館では、冒頭から弱肉強食的世界観が示される。
具体的には飛蝗を食む蜥蜴、
その世界を蹂躙していく武装戦闘集団の人間の構図がある。
精霊にバックアップされた人間とその兵器は、並の精霊警備員を圧倒するとともに、
伏兵的な黒幕の存在にも援用されるだろう。
神殿では、神/精霊に対立する人間の構図がある。
つまりに神と人間の交錯する場所としての神殿だ。
あるいは夜市における黒幕一派の端緒を追いつめる場面では、
小黒(シャオヘイ)と鹿野(ルーイエ)がニーホアンを追いつめる。
ここでは都市圏に紛れる神/精霊同士の対立を眺めるしかない人間の構図がある。
都市圏における流動性や刹那性を、
神/精霊同士の対立として表象しているように観えるだろう。
終盤では北方地方(恐らく北中東~ロシア連邦)における、
兵器を携えて戦う人間に対立する神/精霊の構図、
さらにはその背後における、神殿と人間界を繋ぐ境界線(門)における、
人間(無限)に対する神/精霊の構図がある。
国境線沿いにおける彼岸と此岸の対峙以上に、
ここには支配圏の臨界点における屹立が示されるだろう。
さらにはその北方勢力との戦闘、技術的脅威を一新に観に受ける人間(無限)は、
さながら現人神であり、
2020年代の中国共産党政権の国家主席の神秘性をすら表しているかもしれない。
いま一方の終盤における朽ちた製鉄所(モデルは北京市西郊の首鋼園)における、
神/精霊同士の対立。
ここでは支配権力を巡る腐敗的構造とそれを追求する表象が見て取れ、
或る意味で腐敗一掃を目論み粛々と進める2020年代の中国共産党政権の似姿でもあるだろう。
・中華アニメの臨界点(現時点)

2020年代前後から、中華アニメ業界の進化が凄まじい。
本作の1は2019年公開であり、
その後、「時光代理人」「RINGING FATE」(2025冬アニメベスト)
「ToBeHeroX」(2025春夏アニメベスト)
(全てリ・ハオリン監督、一時期、新海誠に師事)、
「哪吒2」(餃子監督、興行収入は全世界2000億円超)など、
そのキャラクター造詣、美術、エフェクト、脚本、演出、音響、
文藝的射程距離(包括的な社会派作品が多い)などの観点で、
すでに日本の一部アニメーションを圧倒しつつある
(なろう系など)。
2025秋には「Web版 羅小黒戦記」がTV放送されており、
いずれの話数においても脚本、絵コンテ、美術、キャラクター造詣、
ギャグの水準が非常に高く、一部で「不作」と評される2025秋シーズンにとり
異彩を放っている。
その中で本作が公開されることは、大きなインパクトを持つとともに、
実際の興行収入や世評(筆者が鑑賞した回も7-8割の入場者)において
後世で証明されるだろう。
・羅小黒戦記とは

羅小黒戦記の主人公は、小黒だ。
黒猫の精霊であり、人間との共存に揺れる少年として描かれる。
それは圧倒的な「人間」(無限)との出会いによる価値観の天延により
示されるだろう。
初代の劇場版においては、凄まじいの一言に尽きる。
始めはジブリ風アドベンチャー、後半は呪術廻戦の渋谷事変だが、
濃密な異世界描写が、自然から都会まで圧倒的に緻密に構築される。
ブラザーフッドに回収されるホモソーシャルな世界だが、
ペディグルー的な種族対立の巻き返しが倫理観にも迫るだろう。
本作「羅小黒戦記 2」においては、1における異種族間の相克も維持しつつ、
弟子同士の対話(世代間抗争)や陰謀、国家間闘争といった、
1よりもヘゲモニー的世界観の投影を色濃く落としている。
・共存とテロル

「所見」でも触れたが、
本作では「共存」が一つのテーマとなる。
人間、精霊、それぞれが生身の生物と、
自然の象徴(あるいは超越的なもの)として、
その共存共栄を図る勢力(小黒、無限など)と、
敵対する勢力(1におけるフーシー、2における黒幕や鹿野など)との
相剋として描かれるだろう。
それは種族以上に「場所」に規定されているように観える。
本作では目まぐるしく変遷する場所と共に明確なテーマ設定変遷がある。
「自然」における人間と精霊の対峙。
「都市/人工物」における精霊同士の対峙。
「神殿/境界線(国境線)」における人間と精霊の対峙。
ここでは「アークナイツ」(主に中国製、YORSTARのソーシャルゲーム)における
歴史と多種族間での差別構造の構造的超克を踏まえつつ、
それを発展的に一般化しやすいように削ぎ落したものとして提示されるだろう
(ビジュアルも、美少女や美青年の多用から、
ポップなキッズ向け及び性的意匠を可能な限り排除した造詣として提示される)。
そこでは未分化の象徴としての小黒(精霊、少年)が、
分化の完了した達観存在の人間(無限)、
あるいは考えの固着した存在(本作の黒幕や、鹿野など)が、
重要なファクターとして提示されるのだ。
本作において黒幕はある種の「テロル」(テロリズム、潜在的脅威)として描かれる。
テロル(terror、テロリズム)の原理は、
社会や政治体制に対する暴力的な威嚇・実行によって、特定の目的(体制転覆、主張の可視化、不満の爆発など)を達成しようとする行為だ。
2020年代はハイテク化、個人・少人数の孤立型、宗教や政治的動機のハイブリッド化という特徴が強まり、有効性も依然高まっている。
対策には情報収集・法整備・官民連携の強化、ソフトターゲットへの警備、国際枠組みの拡充など多層的なものが講じられているだろう。
テロリズムは都市社会で絶望や不満を持つ集団による、
逸脱行為として現れる傾向が強い。
現代ではグローバル化やIT技術進歩により、
ハイテク・テロと単純な手段が組み合わさり、
変幻自在な組織が登場しているだろう。
個人または少人数による「孤立型テロ」が増加し、社会的支持基盤の拡大や“ソフトターゲット”への攻撃など、影響力や破壊力が高まっている。
そういった意味では本作では少人数のテロルによる発展性が示されているだろう。
本作2において、黒幕は最期にこのように述べる。
自分は人間の欲望に加担しただけだ。
真実を提示した人間が、どう動くか。
それを理由に精霊と人間の対峙が終焉へ向かうことが可能になると。
精霊界の長老たちは、それは「真実ではない」と明確に否定する、
両義性をもつ「大人」として描かれる。
「大人」の要素とは、本作における緻密な設定考証にも示されているだろう。
劇場版1における沿岸世界の水面、
夜景戦闘世界における緻密な都市設計。
それらは本作2においてさらなる洗練を魅せる。
それは物語中盤における鹿野の小黒への応答、
「(もし人間と精霊が対立するなら)私は、精霊の味方につく」
(だが、小黒にそれを強要するつもりはない)という、
妥当性の高いDiversity &Inclusionにも示されているだろう。
・要素別見所

本作を記すうえで欠かせないのが、
圧倒的なディテールへの拘りだ。
WEB版の羅小黒戦記 https://www.youtube.com/watch?v=hCvzUTmxfY4
などを一瞥頂けると分かるが、
田舎風景における木々や稲穂や飛蝗などの導線の一筋一筋、
都市圏風景における建築物や自然との衝突の描写が圧倒的に構築されている。
本作2において、それらはさらなる発展を魅せる。
例えば黒幕一派を追いつめる作戦としての航空機空中戦。
ここでは計器の指示値の一つ一つ、エアロやエンジンの襞襞、
航空機内部の異常時発生における酸素マスクの一つ一つの別々な動きや、
両翼の切断や着地時の内部構造など、
およそ緻密な現地取材無しには無しえない、圧倒的な密度での美術が
考証されているだろう。(接触点における飛行機の3Dの違和感は拭えないが)
あるいは老朽化した製鉄所での戦闘。
筆者は工業系設備業の従事者として生産設備考証に身が入ってしまうが、
コークス炉の描き方、天井の錆び方、老いた蒸気配管の劣化感、
煙突の汚れ方など、細部にわたって微に入り細を穿つ描写が目立つ、
スタッフワークの苦労が垣間見える力作だった。
それらは勿論、
自然と神殿における目を剝くような兵器戦争と精霊術の殺陣、
夜市における建築物間の緻密な構造物配置と跳躍冠感、
北方地方におけるミサイル掃討戦のミサイルやドローンの群体、
朽ちた製鉄所における縦横無尽の戦闘描写と、
それらを支える魅力的なキャラクターデザイン、
力点を絞った絵コンテ、
的確に挿入される音響効果と、
あるいは吹き替えにおける声優の力量
(花澤香菜、悠木碧が秀逸!)が挙げられよう。
正直言って、日中関係が、日本の多党政治におけるしようもない内輪揉めとその利用を目論む中国政府(のXなどSNS利用のさらにしようもない)の状況を踏まえて、
鑑賞を躊躇う人がいるかもしれないのだが(筆者がそう)、
やはりこれは劇場で鑑賞を推奨したい。
併せて、この水準のアニメーション作品を製作可能な中華アニメの射程距離を、今後も注視していく必要性があるだろう。
参照文献
『羅小黒戦記2』日本アニメを揺るがす前作以上のクオリティ 社会派要素を王道展開に昇華
鍛えた拳がバブルを破る。『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』感想&レビュー
动画=中国アニメの臨界点、『羅小黒戦記Ⅱ ぼくらが望む未来』について語りたい!


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