ゴールデンタイム ~アイデンティティの相克と記憶について~

アニメ

竹宮ゆゆ子原作、J.C.STAFF制作のアニメ「ゴールデンタイム」鑑了した。以下所感。

・記憶と人格の結びつきを、成人前後の恋愛感情を交えることで、アイデンティティの確立として昇華するプロセスを描く、ラブコメ風シリアス記憶喪失群像劇。

・基本的には竹宮ゆゆ子*J.C.STAFFの高品質で丁寧な作り込みで、前作「とらドラ」から年齢とメインヒロイン、負けヒロインの描写を一歩踏み込む意気込みであることが伺われる。

・繊細で丁寧な描写力、緻密な脚本構成、複雑で微妙な心理描写は健在。メインヒロインの複層的で不安定な自己認識、しっかり創り上げられたサブヒロイン像、痛々しい恋愛感情描写、詳細で丁寧な成長過程の描写も魅力的。

・アイデンティティの確立について、やや教条的になるが、掘り下げてみたい。

・岡本裕子氏(広島大学大学院教育研究科教授、教育学博士、臨床心理士)は、 1994年の「生涯発達心理学の動向と展望-成人発達研究を中心に-」(The Annual Report of Educational Psychology in Japan1994,Vol.33,132-143)の中で、 アイデンティティの年齢時期に応じた螺旋的な発展について述べている

・このモデルを踏まえて主人公の多田万里の記憶喪失前後の人格構成の違いを考えると興味深いのは、その前後で全く自画像認識が変わっていることだ。記憶喪失前の高校卒業前の 多田万里は自己信頼性が低く、リンダへの依存性の高い人間として描かれる。これは記憶喪失前の自己経験による成功体験の少なさなどにも多分に影響されるものだろう。

一方で記憶喪失から回復した 多田万里は 、事故前の自己とその関係を断ち切る=逃げる代わりに、現実に対してとても前向きな人間として(特に物語の初期に)描かれる。ある程度は事故前の自己に対する後ろめたさが、無理やりの前向きな姿勢を形作っている部分もあるだろう。だから物語の中盤前後から、記憶に関連するアイデンティティ喪失に対して敏感になり、また記憶喪失前の自己認識幽霊の影響力も増え、徐々にネガティブになる傾向が増える。

・ここで多田万里の螺旋的なアイデンティティの成長を考える上で重要な存在が、メインヒロインの加賀幸子であり、サブヒロインのリンダ先輩(林田)である。特にその当初から他社との関係性への配慮に長けた大人の存在として描かれるリンダ先輩と比較し、一方的に主張を押し通す他者性の無いヒロインとして当初描かれる加賀幸子は、その反省から、前向きかつ他者性のある人間への転換途中の存在として、螺旋的な自己認識のバイオリズムの波間にある多田万里を支える存在となる。

・ここで先ほどの 岡本裕子氏 の議論に戻るなら、多田万里のアイデンティティの確立に向け、最終的に過去と向き合い、自己斉一性と 対自的同一性 を身につけ、その上で対他的同一性 を獲得し、アイデンティティの確立という物語の終焉に向かうことになる。

※ 自己斉一性とは、連続性とも言われ 、時や場所に関わらず自分が自分であるとの一貫性を持つこと。対自的同一性とは、自分の目的や送りたい人生などがわかっている感覚を持つこと である。また、対他的同一性とは、他人の自分への評価と、自分が思っている自己評価が一致している感覚を持つことである。

・以上を踏まえた時に、アイデンティティの確立という課題を、成人前後の記憶障害と自己認識という前提に、屈託のないラブコメで切り込むという試みは素晴らしく、一定の成果を収めていると思う。一方で、演出手法や脚本構成を鑑みた時には、この24話の2クール作品を、2.5時間程度の映画2本に纏められるのではないか、という強い所感があることは記しておきたい。

・及第点:時に過剰な感情描写、エピソード間ごとの関連性の薄さ、時に急激な人間関係の変化(幸子が万里に告白する下り、二次元くんの過剰な友情維持志向への変化等)、何より記憶喪失に関連するエピソードの繰り返し頻度の高さ等に由来する冗長な脚本構成が、集中力を削ぐ要因となりえる。

・また一部不安定な作画、特にズームイン前のズームアウト画面構成でのキャラクターや作画不安定化、時に過剰にステレオタイプ化されたキャラクター造詣(初期及び中期にテンポ切替で多様される主人公の多田万里の葛藤の無い言動、茶道部の先輩達など)も、連続視聴意欲を削ぐ残念なポイントだった。

・あとがき1。しかし現実に加賀幸子のような人間が居たら人間関係は大変だろうな、、、岡ちゃんなり、リンダ先輩なりの私生活をもう少し描写してほしかったところ

・あとがき2。記事の作成にあたり、生成AIの力量の凄みを感じたので、添付

file:///C:/Users/go9ra/Downloads/BullFacEdu-HiroshimaUniv-Pt2_41_207.pdf

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